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神戸地方裁判所 平成9年(行ウ)44号 判決

兵庫県姫路市白浜町宇佐崎北三丁目一

原告

吉田功

右訴訟代理人弁護士

竹嶋健治

前田正次郎

吉田竜一

平田元秀

兵庫県姫路市北条一―二五〇

被告

姫路税務署長 滝野祐滋

右指定代理人

黒田純江

長田義博

粟井英樹

新名徹

宮田恭裕

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成九年七月二四日付けで別紙記載の各処分に対する原告の異議申立てを棄却した各決定をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実(明らかに争いのない事実を含む。)

1  原告は、兵庫県姫路市飾磨区妻鹿一六〇二番地の四においてプラスチック成形加工業を営む者であり、平成九年三月当時、姫路民主商工会副会長であった。

2  原告は被告に対し、

(一) 平成六年三月一一日、平成五年分の総所得金額及び納付すべき税額をいずれも零円とする所得税の確定申告並びに平成五年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る納付すべき税額を二九万八一〇〇円とする消費税の確定申告を、

(二) 平成七年三月一五日、平成六年分の総所得金額及び納付すべき税額をいずれも零円とする所得税の確定申告並びに平成六年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る課税標準額を三七六七万八〇〇〇円、納付すべき税額を一二万九五〇〇円とする消費税の確定申告を、

(三) 平成八年三月一三日、平成七年分の総所得金額及び納付すべき税額をいずれも零円とする所得税の確定申告並びに平成七年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る課税標準額を三六〇二万三〇〇〇円、納付すべき税額を九万七六〇〇円とする消費税の確定申告を、

それぞれ行った。

3  被告は原告に対し、平成九年三月三日付けで別紙記載の各処分を行った。

4  原告は被告に対し、同年四月二八日、右各処分について異議申立書(以下「本件異議申立書」という。)を提出して異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした。右申立書には、国税通則法八四条に基づく口頭意見陳述を申し立てる旨が記載されていた。

5  被告は原告に対し、同年七月二四日付けで本件異議申立てをいずれも棄却する旨の異議決定(以下「本件異義決定」という。)を行った。

二  当事者の主張

1  被告の主張

(一) 被告が本件異義決定を行った経緯は、次のとおりである。

(1) 平成九年四月二八日(以下、平成九年については年の記載を省略する。)、原告は被告に対し、本件異議申立ての際に、本件異議申立書を提出するとともに異議申立ての代理人として六名を選任する旨の委任状を提出した。

(2)〈1〉 被告の部下で上席調査官の階戸武彦(以下「異議担当者」という。)は原告に対し、口頭意見陳述を五月二七日午後一時から姫路税務署二階相談室において行う旨を記載した意見陳述の期日等通知書を五月二〇日付けで送付した。これに対し、同月二二日午前八時二七分ころ、原告から口頭意見陳述を午後二時に変更して欲しいとの連絡があったため、異議担当者は原告と協議の上、口頭意見陳述を同月二七日午後一時三〇分に開始することとした。

〈2〉 ところが、同月二六日午後二時四〇分ころ、原告が異議担当者に対し、代理人全員の都合が悪いことを理由として口頭意見陳述の期日を延期するよう申し入れ、原告自身も当日仕事が忙しい旨を申し添え、代理人と相談して折り返し異議担当者に連絡すると述べた。

異議担当者は、原告からの連絡がないため、同月二七日午前九時三〇分ころ、原告に電話連絡をしたところ、原告は異議担当者に対し、同日午後五時までにしなければならない仕事があるので同日の口頭意見陳述には出席できないと答えた。異議担当者は、予定どおり口頭意見陳述を行うよう原告を説得したが、原告が応じないので、期日を再指定することとした。このときに原告が希望日を示さなかったことから、異議担当者は、希望日があれば同月三〇日までに連絡するように原告に伝え、原告もこれを了承した。

(3)〈1〉 しかし、同日を経過しても原告から希望日の連絡がなかったので、異議担当者は本件異議申立てに係る口頭意見陳述を六月二七日午後一時から姫路税務署二階相談室において行うこととし、原告に対し、同月一九日付けでその旨を記載した意見陳述の期日等通知書を送付した。

〈2〉 同月二〇日、原告は被告に対し、以前に選任した代理人六名に加えて新たに二〇名の異議申立代理人を選任する委任状を提出した。

〈3〉 同月二四日午前九時ころ、原告は異議担当者に対し、原告の仕事が忙しいとして、同月二七日の口頭意見陳述期日に出席することはできない旨を申し立てた。異議担当者は原告に対し、右期日は原告が特に希望日を示さなかったために異議担当者が指定したものであって、原告は代理人を二六名選任しているから、原告が出席できなくても代理人が原告に代わって意見陳述すれば足りると説明して、口頭意見陳述を行うよう説得した。原告は異議担当者に対し、原告及び二六名の代理人全員を収容できる部屋で、時間制限をしない条件で口頭意見陳述を行うのでなければ出席しないと主張した。

〈4〉 同月二七日、異議担当者は、右意見陳述の期日等通知書で指定した場所で待機していたが、原告及び原告の代理人は出席しなかった。

(二) 国税通則法八四条一項は、「異議審理庁は、異議申立人から申立てがあったときは、異議申立人に口頭で意見を述べる機会を与えなければならない。」と規定するところ、右のとおり、被告は原告に対し、二回にわたって口頭意見陳述の期日を指定し、その機会を与えたにもかかわらず、原告が口頭意見陳述を行わなかったものであるから、本件異議決定の手続きは適法である。

2  原告の認否及び主張

(一) 認否

(1) 被告の主張(一)のうち、(1)、(2)〈1〉及び(3)〈2〉記載の各事実並びに原告が異議担当者に対し、五月二六日及び六月二四日に口頭意見陳述の期日の変更を申し入れたこと、原告及び原告の代理人が同月二七日に口頭意見陳述に出席しなかったことは認め、その余の事実は否認ないし不知である。

(3) 被告の主張(二)は争う。

(二) 主張

(1) 原告は、五月二六日に口頭意見陳述の期日の変更を申し入れたが、その際に代理人の都合が悪いことを理由として述べたことはない。原告が期日の変更を申し入れた理由は、原告の仕事の取引先からの発注が重なっており、納期が切迫していたのに商品の製造が追いつかなかったため、同月二七日には仕事を休んで口頭意見陳述に赴くことができないというものであり、原告は期日の変更を申し入れた際にその旨を異議担当者に伝えた。したがって、口頭意見陳述の期日を変更すべき相当な理由があった。

(2) しかるに、被告は異議担当者を介し、原告の都合を聞かずに一方的に口頭意見陳述の期日を六月二七日と指定した。

原告は、指定された期日が月末であって、月末に納期を遅らせると代金の決済が一か月遅れて仕入先への支払に重大な支障を生じることから、原告も代理人らも仕事の都合がつかないとして、同月二四日に口頭意見陳述の期日の変更を申し入れた。したがって、このときも、口頭意見陳述の期日を変更すべき相当な理由があったにもかかわらず、異議担当者は期日の変更に応じなかった。

(3) よって、被告は原告に対し、口頭意見陳述の機会を与えたとはいえず、本件異議決定の手続には違法がある。

三  争点

被告が原告に対し口頭意見陳述の機会を与えたといえるか。

第三当裁判所の判断

一  争いのない事実及び証拠(甲一ないし四、五の1ないし5、八、乙一、証人階戸武彦、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  被告が原告に対して三月三日付けでした別紙記載の各処分について、原告は四月二八日付けで本件異議申立てをした。右申立ての際に、原告は被告に対し、口頭意見陳述を申し立てる旨が記載された本件異議申立書及び異議申立ての代理人として六名を選任する旨の委任状を提出した。

2(一)  被告の部下で上席調査官である異議担当者は、本件異議申立てに係る口頭意見陳述を五月二七日午後一時から姫路税務署二階相談室において行う旨を記載した意見陳述の期日等通知書を、同月二〇日付けで原告に送付した。

同月二二日午前八時二七分ころ、原告から口頭意見陳述を午後二時から行うこととして欲しいとの連絡があったため、異議担当者は原告と協議の上、意見陳述の開始時間を同月二七日午後一時三〇分に変更した。

(二)  ところが、原告は異議担当者に対し、同月二六日午後二時四〇分ころ、原告が選任した代理人全員の都合が悪いので期日を延期して欲しいとの連絡をした。異議担当者が、原告本人が出席できるのであれば口頭意見陳述を行ってはどうかと述べたところ、原告は、原告自身も少し仕事が忙しいので出席できない、もう一度代理人に連絡してみると答えたので、異議担当者はその結果について折り返し電話をして欲しいと頼み、原告はこれを了承した。

(三)  しかし、原告からの連絡がなかったので、異議担当者は、同月二七日午前九時三〇分ころ、原告に電話をしたところ、原告は同日の午後五時までにしなければならない仕事があるので口頭意見陳述に出席できないと答えた。異議担当者は、仕事が忙しいことは期日延期の理由にはならない旨を説明し、双方が協議して決めたとおり同日午後一時三〇分から口頭意見陳述を行うよう説得したが、原告は仕事が優先であると主張して説得に応じなかった。そこで、異議担当者は別の期日を設定するため、原告に「速やかに都合のいい日を連絡してください。」と頼み、原告は「はい。」と答えた。

このときの電話で、異議担当者は原告に原処分の見直しのため異議調査を行う予定である旨を伝えたところ、原告は調査に第三者の立会いを強め求め、税理士資格等のない第三者の立会いは認められないとする異議担当者と口論になった。結局、双方の意見が食い違ったまま、異議担当者は口頭意見陳述及び異議調査について都合の良い日を週末の同月三〇日までに連絡するよう原告に伝えると、原告は「はい。」と答えた。

(四)  同月二七日、原告は自ら姫路税務署に赴き、被告あてに「口頭意見陳述の申立書」及び「更生決定理由開示の申立書」と題する書面を提出した。右各書面は、原処分に関する資料を開示した上で口頭意見陳述を行うことを求める内容であったが、口頭意見陳述の希望日や期日指定の方法に関する申入れ等は記載されていなかった。

3(一)  異議担当者は、原告から口頭意見陳述の希望日の連絡がなかったため、本件異議申立てに係る口頭意見陳述の日時を六月二七日午後一時から三時までとし、場所を姫路税務署二階相談室とする旨を記載した意見陳述の期日等通知書を同月一九日付けで原告に送付した。

(二)  原告は被告に対し、同月二〇日、以前に選任した代理人六名に加えて新たに二〇名の異議申立代理人を選任する委任状とともに、人数や時間の制限を受けずに口頭意見陳述を行うことを希望しているので、それが可能な日があるかどうか同月二七日までに回答して欲しい旨を記載した請願書を提出した。

(三)  同月二四日、原告は異議担当者に対し、同月二七日には仕事が忙しいので都合が悪いと電話で伝え、口頭意見陳述の期日変更を求めた。異議担当者は、仕事が忙しいというだけでは期日変更の理由とならず、原告自身が忙しければ代理人だけで陳述することも可能であること、期日に陳述できなかったことは後日書面で提出することもできること等を説明したが、原告は、自分自身が直接に陳述したいと述べ、さらに、人数と場所を制限せず代理人全員が入室できる条件で口頭意見陳述を行うことを要求した。異議担当者が口頭意見陳述の期日変更は行わない旨を伝え、原告が当該期日には出席しないと答えて電話での会話が終了した。

原告は、同日、電話の後で自ら姫路税務署に赴き、被告あての請願書を提出した。右請願書には、指定された口頭意見陳述の期日に原告及び代理人が出席ことは困難であること、口頭意見陳述の人数及び時間を制限しないで欲しいこと、異議担当者の変更を希望すること、口頭意見陳述の希望日時は七月四日、七日、八日及び九日の午前一〇時から午後五時までの七時間であること等が記載されていたが、出席困難の理由として、指定された期日には原告の仕事が多忙であることは記載されていなかった。

(四)  六月二七日は、原告が取引先の株式会社北村製作所から受注した商品であるレンヂパック三〇五(二六四〇点)、同三〇八(一三〇五点)、プラ鉢七号(一二〇〇点)の納期であったが、原告は同月二三日に同社から納期を一日早めて欲しいと要請されていたため、同月二六日に右商品を全て納入していた。また、そのころ、原告が北山製網株式会社から受注した商品であるブッシュ#五五(三〇〇〇点)、同七〇(三〇〇点)及び丸わP一四〇(二〇〇〇点)並びに大和チェーン株式会社から受注した商品であるAEセンサーケース(七〇〇点)の納期も接近していたが、これらの商品は、機械を作動させておくことにより従業員らに製造を任せることができるものであった。

(五)  異議担当者は、同月二七日午後一時ころから姫路税務署において原告らの来署を待っていたが、原告、代理人らはいずれも出頭しなかった。

二1  原告は、五月二七日午後一時三〇分の口頭意見陳述の期日について、原告及び代理人の仕事が忙しく出席することができなかったので、期日を変更すべき相当の理由があったとの主張をする。

証拠(甲五の1ないし3、八、原告本人)によると、同日ころは、原告が取引先である興永商事株式会社、千石刃物及び北山製網株式会社から受注した商品の納期が重なっており、千石刃物から受注した「クリーナー」は、納期が同月二八日(八九〇点)及び三〇日(九九〇点)で、原告が雇用する従業員には製造の技術がなく、原告自身も一時間に最大四〇個しか製造できないものであったため、原告が多忙であった事実は認められる。

しかし、前記認定のとおり、五月二六日の期日延期の理由は代理人の都合が悪いというものであったこと、原告は同月二七日に自ら姫路税務署に赴いて「口頭意見陳述の申立書」及び「更生決定理由開示の申立書」を提出していること、しかも、右「口頭意見陳述の申立書」に仕事が多忙である旨の記載はなく、六月二〇日及び二四日に各提出された請願書に人数制限や時間制限なく意見陳述を行いたい旨の記載はあるが、仕事の繁忙状況についての記録がないことからすると、原告が仕事の繁忙により五月二七日の口頭意見陳述が不可能ないし著しく困難であったとまでは認められない。

また、原告が選任していた六名の代理人らが右期日に出席できなかった具体的な事情を原告は全く主張、立証しないから、右代理人らについても仕事の多忙により口頭意見陳述に出席できなかったとは認められない。

よって、右期日を変更すべき相当な理由があったとはいえない。

2  次に、原告は、六月二七日午後一時からの口頭意見陳述の期日が、原告の都合を聞かずに一方的に指定されたものであり、同日には原告及び代理人の仕事の都合で出席することができなかったのであるから、期日を変更すべき相当な理由があったと主張する。

しかし、前記認定によれば、六月二七日の期日は、原告に希望日を連絡するよう要請しても回答がなかったため、異議担当者が指定したものであり、原告の都合を聞かずに異議担当者が一方的に指定したものとはいえない。甲第八号証及び原告本人の供述の前記認定に反する部分は、証人階戸の証言に照らし、採用できない。また、前記認定によると、右期日のころ、原告が株式会社北村製作所、北山製網株式会社及び大和チェーン株式会社から受注した商品の納期が迫っていたが、株式会社北村製作所への商品の納入は右期日の前日に完了しており、他の商品については原告自身が製造を行わなければ完成できないものではなかったこと、原告は出席可能であったが代理人会議が未了であったため出席しなかった旨を原告が本人尋問において自認していることから、原告が右期日に口頭意見陳述に出席することは十分可能であったことが認められる。

さらに、原告は右期日の当時、二六名の代理人を選任していたが、これらの代理人について口頭意見陳述に出席できなかった具体的な事情を全く主張、立証しないうえ、原告本人尋問の結果によれば、原告は右期日の直前に代理人らに出席が可能かどうかの確認を行わなかったというのであるから、代理人らが仕事の都合で出席できなかったとの事実は認められない。

よって、同月二七日の期日についても変更を要する相当な理由があったとは認められない。

三  以上によれば、被告は異議担当者を介し、二回にわたって口頭意見陳述の期日を指定したのに対し、原告は期日を変更すべき相当な理由がないのにいずれの期日にも出席しなかったのであるから、被告は原告に対し、口頭意見陳述の機会を与えたものということができ、本件異議決定の手続は適法である。

第四結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 田口直樹 裁判官 武宮英子 裁判長裁判官將積良子は、転任のため、署名押印することができない。裁判官 田口直樹)

(別紙)

一 原告の所得税について

1 平成五年分の総所得金額を四五一万四〇九二円、納付すべき税額を三一万三三〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を三万一〇〇〇円とする賦課決定処分

2 平成六年分の総所得金額を七五八万六〇二〇円、納付すべき税額を八〇万〇七〇〇円とする所得税の更正処分及び過少申告加算税額を九万五〇〇〇円とする賦課決定処分

3 平成七年分の総所得金額を六七三万〇一二九円、納付すべき税額を六七万七三〇〇円とする所得税の更正処分及び過少申告加算税額を七万五五〇〇円とする賦課決定処分

二 原告の消費税について

1 平成五年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る課税標準額を五四七八万円、納付すべき税額を六五万七三〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を三万五〇〇〇円とする賦課決定処分

2 平成六年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る課税標準額を四一〇〇万円八〇〇〇円、納付すべき税額を二七万〇八〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を一万四〇〇〇円とする賦課決定処分

3 平成七年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る課税標準額を三七五七万三〇〇〇円、納付すべき税額を一七万〇七〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を七〇〇〇円とする賦課決定処分

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